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かつしか区民大学講座『葛飾柴又 魅力再発見』

令和4年11月5日、26日の土曜日に2回連続講座として、『葛飾柴又 魅力再発見』を開催いたしました。皆さんは「葛飾柴又の文化的景観」という言葉をご存知でしょうか。葛飾柴又は日本を代表する景観地の一つとして、平成30年に国の重要文化的景観に選定されています。
本講座では、人と自然とが相互に関わり合いながら作り上げてきた景観地である葛飾柴又の魅力を参加者の皆さんと共有し、再発見しました。
今回は会場だけではなく、YouTubeでのオンライン生配信も行い、さらに開催後2週間程度アーカイブ映像の限定公開も行いました。
なお、本講座はかつしか区民大学区民運営委員会の企画・運営で実施しました。

第1回 11月5日(土)

本講座は、学芸員の谷口榮《たにぐち さかえ》さんにご講義いただきました。谷口さんは葛飾区観光課の職員や大学の講師など、幅広くご活躍中で、NHKの「ブラタモリ」にも出演されています。今回も軽快な語り口で、葛飾柴又の歴史や魅力をわかりやすく、そして奥深く語っていただきました。

第1回は、葛飾柴又の歴史的特性についての講義でした。初めに講師からお話があったのは、葛飾柴又の景観やイメージは映画によって作り出されたのではなく、元々映画の舞台に選ばれるだけのポテンシャルを秘めた土地であったということです。
そして、今回の講座では、葛飾柴又のイメージを換えるキーワードとして「境界性」と「交通の要衝」という二つの言葉が示されました。

「境界性」とは、国境など二つの地域が分かれるところでもありますが、その反面二つの地域が接する部分でもあります。国境は、その相反する両義的な存在(両義性)として理解されます。その国境が古代・中世は隅田川だったのが、江戸川へとシフトしています。巨視的に見ると東京下町は、いつの時代でも国境の位置する境界性を持った地域であるとのことです。
また、葛飾柴又に対する下町のイメージについて考えるとき、時代によって下町の範囲は異なる、ということを念頭に置いておく必要があるのです。江戸時代前期と後期では、江戸の下町の範囲が異なっていることを図面を使って解説していただきました。荒川(放水路)以東の、葛飾地域が東京の下町に組み込まれたのは高度経済成長期の頃になってからだということです。江戸の下町と東京の下町をしっかり分けて考えないといけませんね。

もう一つのキーワードである「交通の要衝」については、江戸川沿いの柴又地域には引き潮の時に歩いて渡れる浅瀬があり、古代から江戸川の渡河地点として機能していました。現在も有名な都内唯一の「矢切の渡し」があり、歴史的にも源頼朝の武蔵国入りや二度にわたる国府台合戦など、渡河地点だからこその出来事だというお話がありました。そして渡河地点である柴又地域は陸上交通と水上交通の結節点であり、それが柴又の歴史的特性として重要であるということでした。

ほかにも、地名の由来を考える際に気を付けるべきこととして、漢字から意味を考えてはいけない、というお話が印象に残りました。例えば「柴又」は「嶋俣」、「矢切」は「八切」など、時代の流れであてられる漢字は変わってきているので、注目すべきは漢字ではなく音でどのように地名がよばれているかということだそうです。ついつい漢字から意味を考えてしまいがちですが、気を付けないといけませんね。

第2回 11月26日(土)

第2回は、葛飾柴又の文化的景観についてを中心とした講義でした。
文化的景観とは、文化遺産の類型の一つですが、歴史的な個々のモノだけを対象とするのではなく、歴史的なモノが生まれた地域の風土を舞台として、そこで営まれた人間の活動によって形成された有形・無形の産物なども含めた景観全体を対象としているということです。
また、地域の風土や景観は日常生活に根差したものであり、普段はその価値に気づきにくいため、文化的景観を保護する制度を設けることによって、その価値を正しく評価できるようになるということでした。

葛飾柴又については、平成に入ってから柴又地域の開発行為などが目立つようになり、柴又ならではの情緒や風情を守る必要が出てきていました。単体の歴史的建造物を保護するだけではそうした情緒や風情を保護することは難しいため、葛飾区では柴又地域の「文化的景観」選定申出の準備を進め、平成30年2月に東京で初めての重要文化的景観の選定を受けることになったということです。

そして、文化的景観という切り口から柴又を考える時に重要なことは、帝釈天題経寺と門前のような象徴的な空間だけを考えるのではなく、地域を成り立たせる広い領域における長い歴史の中で、現在の柴又の景観を捉えなおすことでした。
さらに、葛飾柴又の文化的景観については、歴史的な土地利用の観点から、同心円状に重なる3つのリング状の領域からなる「3重の空間構造」についても解説していただきました。すなわち、第1のリングは「帝釈天題経寺とその門前の空間」、第2のリングは第1のリングの地域を支えたかつての「農村部の空間」、第3のリングはさらにその周縁の「大都市近郊の低地開発を伝える空間」ということです。
文化的景観はそれらを点ではなく、面としてつなげて保護していくことが重要だということが語られました。

ここでは書ききれませんが、講座ではほかにも様々な切り口から柴又の歴史的特性や魅力を深堀していただきました。

参加された方の声

ここで、今回の連続講座に参加された方のアンケートから、感想の一部をご紹介いたします。

・多角的な説明で柴又の良さの深みが理解できた。
・文化財となった価値や、周りを取り囲む自然や人々の繋がりを知れた。
・柴又の過去・現在・未来の時間軸の流れを確かな繋がりを感じながら知ることが出来た
・題名の通り、柴又の魅力の再発見ができた。
・葛飾柴又について、より広い視点から見るきっかけになりました。

おわりに

筆者は今回の講座に参加して、今まで葛飾柴又に対して抱いてきたイメージがいかに限定的で、一部の側面しか見ていなかったかということに気づかされ、柴又の魅力はその土地の特性や歴史的な背景によってずっと昔から存在していたのだと感じました。

この場をお借りして、今回素晴らしい講義をしていただいた講師の谷口さんに改めて感謝申し上げます。

そして本講座に参加いただいた方、本記事をお読みいただいた皆様も本当にありがとうございました。

文 濱田


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