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認知症をVRで疑似体験!

 2023年2月3日(金)、かつしか区民大学特別講座「VR認知症 認知症をVRで疑似体験!」を開催しました。
 今回は、株式会社シルバーウッド VR事業部の黒田 麻衣子 さんにお越しいただき、当事者の視点から認知症の中枢症状を体験させていただきました。

 認知症のある方が、想いをうまく表現できなくなるがゆえに起こす行動は、“認知症だから起こすもの”とみなされがちです。しかし、黒田さんによれば、認知症がある方の行動には、ご本人を取り巻く周囲の理解やコミュニケーションが大きく影響しているとのこと。
 そこで今回は、VR体験やディスカッションを通じて、認知症がある方を取り巻く問題の本質に迫りました。

認知症のある方の感じている「恐怖」をリアルに味わう

 VRゴーグルを装着し、いよいよ認知症体験開始。
 すると、受講者席から次々と戸惑いの声が聞こえてきました。それもそのはず、受講者の皆さんは、高いビルの屋上の縁に立たされているのです。
 そして背後からは、「どうしましたか?」と声が。振り返ると、介護士の方たちが、「大丈夫ですよ」とほほ笑みながら、ビルから降りるように指示してきます。
 「いったいどういうこと?」と思いながら、介護士の方たちに降ろされて目を開けると、そこは老人ホームの入口。「お帰りなさい」と出迎えられ、1回目のVR体験は終了です。

 続いて、受講者の皆さんでディスカッションをします。
 「わけがわからず、恐怖を感じた」「何が起こっていたのかわからなかった」……と話し合う皆さんに、黒田さんから答えが。
 1回目のVR体験は、認知症の中核症状である「視空間失認」を再現したものでした。
 「車から降りられなくなってしまった老人ホームの入居者の方のお話を聞いてみると、『高いビルから飛び降りるみたいなんだ』とおっしゃったんです」と黒田さん。「視空間失認」により、車のドアから地面に降りるまでの高さが、ビルの屋上から地上に降りるような高さに感じられた、というお話に着想を得て、このVR体験を作成したとのことでした。

 こういった前提を踏まえ、「認知症のある方の立場になったとき、どうしてもらったらうれしいか?」と話し合ってみると、「手を握ってもらったら安心するかも」「何が起こっているのか、教えてほしい」など、さまざまな意見が飛び交いました。

 黒田さんによると、多くの認知症の方は、「話を聞いてほしい」と思っているとのこと。「認知症だから、何もわからない」と決めつけられ、「話を聞いてもらえなくなってしまった」と感じている方が多いそうです。
 しかし、その方が言っていること(たとえば、「ビルから飛び降りるみたい」という言葉)を真に受けて考えてみることで、「介護拒否」とひとくくりにされてしまいかねない行動の理由や、周囲の人がとるべき行動が見えてきます。

幻視のある世界を体験してみると……

 2回目のVR体験は、レビー小体型認知症当事者の樋口直美さん監修の「レビー小体型認知症 幻視編」。次々に現れる、駆けてくる犬や無表情の人、テーブルを這う蛇などは、幻視だと気づけないほどリアルです。

 VR体験の後には、樋口さんからメッセージが。樋口さんは、「(幻視のある人には)確かに見えているのに、『そんなものあるわけないでしょ』と否定されることは、とても悲しいことです」と語ります。だからこそ、幻視のある方と接するときには、「敬意」と「知的好奇心」をもって、何が見えているのか尋ねてみてほしい、とのことでした。

「ここがどこだか、わからなくなってしまったんです」

 3回目は、電車に乗って目的地に向かう途中、突然「ここがどこだかわからなくなってしまった」方の視点をVRで体験。「ここはどこだろう?」という不安をきっかけに混乱状態に陥ってしまった主人公ですが、通りすがりの方の優しい声掛けで、冷静になることができました。

 さらに、若年性アルツハイマー型認知症の当事者である丹野智文さんのインタビューも視聴。
 現在も一人で電車通勤をしているという丹野さんのお話を聞いて、「認知症だからできない」「認知症だからわからない」と決めつけずに、認知症のある方の気持ちに寄り添い、「どうしたらよいか」を一緒に考えていくことが大切だとわかりました。

受講者の方のご感想

 講座を受講した皆さんからは、こんな声を寄せていただきました。

  • 体験したからこそわかったことがたくさんありました。病気を見るのではなく、同じひとりの人間として、どんな人ともかかわっていきたい。

  • 認知症と言っても一人一人個人差があるということ、対応の仕方も一人一人に会った方法が必要だということがよく理解できました。

  • とてもやさしく温かい講座でした。3つの症状を体験できただけでなく、それに付随した先生のお話がとても参考になりました。

 VRによる認知症体験を通じて、新たな視点から、認知症のある方との接し方を考えることができましたね。
 最後に、この場を借りて、ファシリテーターを務めてくださった黒田さんに深くお礼申し上げます。

(文:福山)

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