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かつしか区民大学15周年記念特別講演会「人生を楽しくする方程式~世界110カ国の面白体験談~」

令和6年7月7日(日)、かつしか区民大学15周年を記念した特別講演会が開催されました。
講師にピーター・フランクルさんをお迎えし、「人生を楽しくする方程式~世界110カ国の面白体験談~」というテーマでお話いただきました。

講師プロフィール

数学者・大道芸人。1953年ハンガリーに生まれる。1971年国際数学オリンピック金メダル受賞。1977年博士号取得。1979年フランスに亡命。1988年から日本在住。
ハンガリー学士院メンバー。語学にも長けており12ヶ国語を操る。その才能を活かし110カ国以上を訪問している。
現在は人生を楽しくするコツ等をより多くの日本人に伝えたいと、講演活動に力を入れている。
「子どもの英語教育はあせらなくて大丈夫!」(草思社)等、著書多数。

ピーターさんと葛飾

 講演会は、いきなりピーターさんの大道芸(ジャグリング)からスタート。それも単なるジャグリングだけでなく、数学者らしく数の話を盛り込みながらの見事なパフォーマンスでした。
 
 各都道府県に15回以上行かれているというピーターさんは、葛飾にもいろいろご縁があるそうです。昔、テレビ番組でおもちゃ工場などを取材したり、区内の歯医者さんに通ったり、水元公園でテナガエビを釣ったり…。

ハンガリーを飛び出す

 そんなピーターさんが生まれたのはハンガリー。
 当時、ハンガリーは社会主義国で、外国、特に西側の国に行くための許可を得るのは非常に難しかったそうです。でも、それを乗り越えてフランスに留学したのが大きな転機でした。いろいろな国の学生との交流を通して、彼らが政治的な発言も自由にできるのを見てフランスを気に入り、亡命することを決めたそうです。

さて、ここで問題です

 お話の途中、突然、ピーターさんからこんな問題が出ました。 

 この問題、あなたは解けますか? 簡単そうで意外と難しいですよ。
 数字は、下の日付や、自分が書いたものもカウントします。
 「0」は日付を含めて2個。
 「1」は1個…でも、そう書いた瞬間に2個になってしまって矛盾してしまいます。
 数える順番を変えたりしながら、続きを考えてみてください。
 
 講演会では、こうした問題を交えながらお話が続きました。

ハンガリーの良かったところ

 亡命はしたけれど、ハンガリーにも良い面があったそうです。

 ピーターさんが初めて日本に来た約40年前、日本の学校は部活動が盛んで、スポーツ大会も盛んでした。
 「高校時代は何をやってましたか?」
 「○○○○(スポーツ名)をやってました」
 という会話が普通に交わされているのを聞いて、疑問に思ったそうです。
 「え?勉強は…?」

 一方、ハンガリーは、世界の高校生数学コンテストが最初に行われた国で、ほかにも様々な学問の全国コンテストがありました。ピーターさんが数学者になれたのも、こういう環境があったからだそうです。

ご両親から学んだ人生哲学

 ピーターさんのご両親は、ハンガリーの小さな町の病院で医師として働いていました。
 そんなお父様がピーターさんによく、こんなことを言っていました。
 「お前の財産は頭と心だけだ」
 第二次世界大戦中、ユダヤ人だったピーターさんの親戚の多くが家や命を奪われたことから、人間の本当の財産は頭と心しかない、と考えるようになったそうです。

 また、お父様は、高齢の患者さんからはお金をあまりもらわずに診療していました。そのため、経済的には決して豊かではありませんでしたが、たくさんの感謝をもらい、人間関係は豊かでした。
 そんなお父様を見て、ピーターさんは仕事について、「人々から求められ、社会に役立ち、そして何よりも自分でやっていて楽しい仕事が一番だ」と思うようになりました。
 そして、ピーターさんが選んだ職業は、数学者でした。
 亡命後、フランスの大きな研究所で好きな研究をしながら、数学者として世界の国々を回っていました。

憧れのアメリカにがっかり

 そんな中で、ピーターさんが憧れていたのがアメリカでした。
 学問は世界の最先端。しかもアメリカ人だけでなく、世界中から優秀な人たちが集まって活躍しています。ところが、「アメリカで働きたい」と思っていたピーターさんは、やがてアメリカにがっかりしたそうです。
 まず、「自分は数学者だ」と言っても、好意的な反応がなかったこと。
 さらに、いい車を持っていない人、お金がない人は正当に評価されないこと。
 これらは、「財産は頭と心だけ」というピーターさんのご両親の価値観とは正反対のことだったからです。

ピーターさんから見た日本

 一方で、ピーターさんは日本に様々な良さを感じたそうです。
 日本では、「自分は数学者だ」と言うと、好意的な反応や、中には「こんなの解けますか?」と言って数学の問題を出してくる人までいました。
 40年前の日本は、今ほど格差がなく、まじめに頑張れば評価され、成功者になれる社会だと感じたそうです。
 
 また、日本人のおおらかさも気に入りました。
 他の国と比べて政治的な分断があまりないこと。日本語は白黒はっきりさせずあいまいにできること。意見が違ってもどこかに共通点を見出そうとすること。多くの人が生活の中で神道にも仏教にもかかわっているように宗教的にも寛容なこと…。
 世界のいろいろな国を体験してきたピーターさんだからこそ感じられた、日本の良さでした。
 そんな日本のおおらかさを、これからも大切にしてほしい…という言葉でお話を締めくくられました。

答え合わせ

 ところで、ピーターさんの問題、あなたは解けましたか?
 ピーターさんの解答はこちらです。 

 この問題、なかなか手ごわいです。数が書き換わることで矛盾が生じてすぐ進まなくなります。筆者もまだ自力で答えにたどり着けていませんが、パズルを解く感覚で気長に考えてみようと思います。

質問タイム

ピーターさんは普段は何語で考えているのですか?

 集中してじっくり考える時は母国語のハンガリー語です。でも、普段は、自分の知っている語彙の範囲でその国の言葉で考えるようにしています。

数学の研究者は変わった方が多いというイメージがありますが、ピーターさんはそうでないのはなぜですか?

 確かに、一緒に食事をしたくないような数学者は多いです(笑)。
 私も人とのコミュニケーションは苦手でしたが、それを変えたのが大道芸でした。大道芸をしながら、見てくれる方と会話するようになってから、人がこわくなくなりました。
 「袖振り合うも他生の縁」という言葉があります。人と人が出会うのは必然なのだと思います。でも、声をかけなければそれで終わってしまいます。だから、列車や飛行機で隣になった方には話しかけるようにしています。そこから世界が広がることがあるので。

ピーターさんの宝物は何ですか?

 やはり自分の子供たち。そして豊かで温かな人間関係です。それは人生を楽しくしてくれるから。
 Keep your heart open. 
 常に心の門戸を開いて、新しい人間関係を築いていってください。

アンケートより

  • 「袖振り合うも他生の縁」、数字の奥に秘められた出逢いの奥ゆかしさを教えていただきました。人は一人では生きることができない「つながりの大切さ」を学ばせていただきました。

  • 広範囲にわたっての話、すごく面白かったです。頭と心の財産をこれからも磨いて大事にしていこうと思いました。

  • 今日で大ファンになりました。今日のお話はとても心に沁みました。

(文:新井)