初めての手話体験入門講座
令和6年7月29日~30日、東京都立葛飾ろう学校で公開講座「初めての手話体験入門講座」が行われました。
その第一日目に参加しましたので、内容をご紹介します。
講座は、先生が手話で講義し、手話通訳の方が言葉にしてくれるという形で進められました。最初は違和感がありましたが、すぐに慣れ、これもコミュニケーションの一つの形だということを自然に感じることができました。
「聴覚障害者の基礎知識」
午前中は葛飾ろう学校の安藤先生による講義でした。
聴覚障害の概要
聴覚障害とは、音が聞こえにくかったり、聞こえなかったりする状態のことですが、様々な種類があり、それが生じた時期も、程度もいろいろです。
だから「聴覚障害」とひとくくりにすることはできません。
その人がどれに当たるのかは、周囲が決めるものではなく、その人自身がどう思っているのかというアイデンティティによるものだ、ということでした。「障害」ではなく「その人のアイデンティティ」だと考え、それを尊重することが大切なのですね。
聴覚障害は見た目ではわかりません。そのため、困っていても周囲が気づかなかったり、声をかけられて気づかないと無視されたと誤解されたりしてしまうこともあるそうです。
生活の音が聞こえないのも困ります。そのための福祉サービスの例として、電話やインターホンが鳴ったり、何か異音があると光や振動で知らせる装置の貸出の話や、さまざまな種類の補聴器のお話がありました。
聴覚障害者のコミュニケーション
聞こえない人とのコミュニケーションの方法は、手話、身振り、表情、空書(空中に文字を書く)、筆談、口話(口の動きで伝える)、指文字(指で日本語の五十音を表す)など様々です。
そして、先ほどの話にあったように、聴覚障害は一人ひとり違うので、まずは本人にどういう方法が良いかを聞くことが大切です。
続けてお話してくださったコミュニケーションのポイントは、
大切なのは、相手に伝えよう、相手のいうことを理解しよういう姿勢。
相手に通じたか時々確認する。
回りくどい表現はNG。シンプルで短く。
会話中は視線を合わせる。
目線、表情、体の向きも重要な要素。
楽しみながらコミュニケーションする。
これは聴覚障害者だけでなく、すべての人とのコミュニケーションで大切なことばかりだな、と感じるとともに、言葉以外のコミュニケーションの要素をもっと大切にしないとな、と思いました。
手話で伝え合う
そして、いよいよ手話のはなしです。
この講座の中で何度もあった言葉ですが、「手話は音声日本語とは異なる言語」なのだそうです。
手話は日本語を手の動きに置き換えたものではなく、独自の語彙や文法やリズムがある。これは「手話」というものの本質を理解するためにとても重要なことのようです。
さて、ここで質問です。
言葉を使わずに「バナナ」を伝えるとしたら、あなたはどうしますか?
たぶん、バナナの皮を剥く動作とか、食べる動作をして伝えようとすると思います。
実は、手話の「バナナ」も同じで、バナナの皮を剥く動作で「バナナ」を表します。
手話で大切なのは、その言葉からどんなものをイメージするかを考える「想像力」です。
まず、色に関する手話を教えていただきました。
文字では表現できないのが残念なのですが、興味のある方はぜひ図や動画を検索してみてください。
ここでは、考え方を少しだけ紹介します。
「赤」…唇を指す(唇の色)
「白」…歯を指す(歯の色)
「黒」…髪の毛をなでる(髪の色)
「青」…頬をなでる(男性の髭剃りあとが青いから)
「金色」…お金マークを作り軽く揺らす
「銀色」…「金色」+「白」
「緑」…「草」の手話と同じ(草が緑色だから)
「黄色」…「ひよこ」の手話と同じ(ひよこが黄色いから)
「茶色」…「栗」の手話と同じ(栗が茶色いから)
「ピンク」…「桃」の手話と同じ(桃の色がピンクだから)
どうですか? 確かに言葉のイメージから連想したジェスチャーのようだと思いませんか?
少し手話が身近に感じました。
簡単なあいさつも教えていただきました。その中から3つご紹介します。
いずれも考え方がわかると、すぐ覚えられます。
これで、三つのあいさつのほかに、「あいさつ」「朝」「昼」「夜」「暗い」という表現も同時に覚えることができました。
知っている表現が増えていくにつれて、手話は加速度的に面白くなっていくようです。
さらに、手話での簡単な会話の練習がありましたが、参加した皆さんは練習問題そのものを答えるのではなく、どんどんアレンジしてくれます。
例えば、
「お腹がすいた。パスタを食べに行こう。」
という問題の「パスタ」を「寿司」「そば」「ラーメン」…という感じでアレンジしてくれるので、そのたびに新しい表現が増えていき、応用範囲が広がり、面白さが加速していきました。
名前を覚える
午後は葛飾ろう学校の加藤先生から、参加した皆さん一人ひとりの苗字の手話表現を教えていただき、みんなで練習しました。
最初は「他人の苗字なんて…」と思っていたのですが、手話単語の語彙がどんどん増えていき、表現できることが増え、またまた面白さが加速していきました。
佐藤さん、佐々木さん…
苗字は、漢字を手話で表現するもの、読みを指文字で表現するもののほかに、ちょっと面白いものもありました。
「佐藤」さん…「砂糖」の手話と同じ。
「渡辺」さん…「綿」と「鍋」の手話。
なんだかダジャレですね…。
「佐々木」さん…佐々木小次郎が背中から刀を抜く動作。
「加藤」さん…加藤清正が槍を使う様子。
こっちは歴史マニアの世界ですね。
ちなみに私の苗字についている「新」という文字をあらわす手話も、新田義貞が鎌倉攻めの際に黄金の太刀を海に投げ入れた動作なのだそうです。
調べてみたら、ほかにも面白い由来の手話がいろいろありそうですね。
手話の面白さがわかった
手話についての予備知識がほとんどなかった私ですが、一日受講して、手話の面白さにどんどん引き込まれていきました。
講座が終わった後、勇気を出して、葛飾ろう学校の先生に覚えたての手話でお礼のあいさつをしてみたのですが、ちゃんと通じたことが分かった瞬間、とても嬉しくなり、もっと手話のことを知り、伝えてみたくなりました。
手話は、知識ではなくコミュニケーションの手段。どんどん使って、伝えていくと、もっともっと面白くなっていくんだろうなと思いました。
(文:新井)